宇宙の無限の闇、
シャア・アズナブルが駆る赤いMS(モビルスーツ)、ザクⅡS型が、
敵の艦隊を翻弄していた。
彼の動きは鋭く、赤い彗星と呼ばれるゆえんが垣間見える。
彼の側を飛ぶ青いMSはガルマ・ザビが駆るザクⅡFS型だ。
ガルマはシャアを尊敬し、友情を感じていた。
彼らはまるで宇宙の闇を照らす明星のように、敵を次々と撃破していった。
しかし、この戦いでのシャアの動きにはいつもと違うものがあった。
彼の攻撃は鋭さを欠き、迷いが見え隠れしていた。
ガルマはシャアの動きに一瞬のためらいのようなものを感じた。
ガルマは通信で声をかける。
「シャア、どうした、大丈夫か?」
シャアは一瞬の沈黙を経て言葉を返す。
「…大丈夫だ、ガルマ」
しかし、その言葉からは自信が感じられなかった。
戦闘が続く中、シャアは一度、自身の機体を停止させる。
無数の星々が、赤い一つ目の巨人を見下ろしているかのように輝いていた。
彼の心は、過去と現在、友情と復讐、愛と憎悪が交錯する嵐の中にあった。
そして妹のアルテイシアの姿が瞼の裏に浮かんだ瞬間、
一筋のビームが赤いザクの左肩を貫いた。
「なに!戦艦の主砲・・!?いや、連邦のモビルスーツか・・!」
そして二射目の閃光!!
「ちぃっ!!」
即座に回避するシャア。
「当たらなければどうということはない・・・」
モニターに映る敵・白いMSから三射目の閃光が来る!
またしても回避するシャア。
しかし白いMSの機動性とパワーに、
シャアは得体の知れないプレッシャーを感じた。
「邪魔をするなぁ!!」
シャアはコクピットの中で絶叫していた。
ザビ家への復讐を邪魔するものは誰であろうと赦さない。
そんな怒りが通じたかのように赤いザクは左足を白いMSの腹部に蹴り込んでいた。
連邦の白いMSが吹き飛んだその隙に、
ガルマはシャアを助けるべく接近した。
「シャア!退くんだ!」
そして白いMSから4射目の閃光・・・!!
シャアのザクは間一髪でビームを回避したが、
ジリジリ・・と、ビームから飛び散った粒子がザクの装甲を微かに焦がす。
「連邦のモビルスーツは化け物か!」
5射目、6射目。
左腕を失った赤いザクは、シャアの巧みな操縦テクニックにより回避運動を続けた。
MSの性能の差が、戦力の決定的な差では無いことをシャアは理解していた。
しかし…連邦のMSから感じるプレッシャーをシャアは無視できなかった。
「シャア!下がれ!」
ガルマはシャアを助けるべく、白いMSと戦った。
彼の青いMSは、連邦の新型MSに圧倒されながらも、
シャアを守り抜こうと奮戦していた。
シャアはガルマの奮闘に助けられ、辛くも母艦ファルメルに帰還することができた。
彼らは、今までにない重々しい空気に包まれる。
「シャア、お前、何があった?今日はいつものお前らしくなかった」
その問いかけにシャアは答えることができなかった。
その瞳には、言葉にできない深い闇と痛みが浮かんでいた。
ガルマはシャアを部屋に連れていき、彼に真実を語るように迫った。
「ガルマ…」
シャアは言葉を探る。
彼の心にはガルマ・ザビという友に、
自らの持つ恐ろしい秘密を告げる勇気がなかった。
しかし、ガルマは待っていた。
彼はシャアの言葉を待ち、その沈黙を静かに受け入れていた。
シャアは深呼吸を一つ。そして、ついに口を開く。
「ガルマ…私には君に言えなかったことがある。」
その言葉に、ガルマの目が硬くなった。
シャアは彼の視線を受け止めながら言葉を紡ぐ。
「私の本当の名前は、キャスバル・レム・ダイクンだ。」
ガルマの顔が青ざめていく。
キャスバル・レム・ダイクン、その名前はジオン公国ではタブーとされており、
ザビ家に仇なす名前であった。だが、シャアは止まらなかった。
「ザビ家は、私の父ジオン・ズム・ダイクンを裏切り暗殺した、
その復讐の為に私はシャア・アズナブルと名を変え生きている。」
言葉が終わると、部屋に重苦しい沈黙が降り立った。
ガルマの瞳は、衝撃と怒り、そしてシャアの裏切りを感じ揺れ動いていた。
だが、シャアはその視線を受け止め、自分のすべてをガルマに晒す決意をした。
この時シャアは復讐の相手であるはずのガルマに、
友情以上の何かを感じていたのかもしれない。
シャアはガルマの瞳を真っすぐに見つめ、これまでの自分の歩みと、
ザビ家への憎しみ、そして、ガルマとの友情に至るまでの道のりを語り始めた。
ガルマは言葉も無く、シャアの告白を聞いていた。
それは、彼の中で多くの葛藤を呼び起こす時間だった。
シャアの告白は、ガルマの心をかき乱した。
ザビ家の名、権力と名誉、それに絡み合う栄光と野望。
それらが彼の心を突き刺し、苦悩へと誘った。
シャアは、ガルマの揺れ動く心情をじっと見つめていた。
彼の中でも、友情と復讐、愛と憎悪が入り組み渦巻いていた。
「なぜ、今まで言わなかったんだ、シャア?」
ガルマの声は、悲しみと怒りで震えていた。
しかし、シャアは静かに確かな声で応えた。
「君と共に戦い、時を重ねていくにつれて、真実を伝えるのが怖くなった、
そしてガルマ、君を失いたくないと思うようになった。」
その言葉は、ガルマの心に深く響いた。
彼は、シャアの瞳に映る自身の姿をじっと見つめた。
そこには、怒りや裏切り、野望や憎悪ではない、
士官学校時代から、苦楽を共にした二人の純粋な友情の光が輝いていた。
室内に沈黙が流れる。
その間も、ガルマとシャアの視線は交わり、
その強い絆が、二人の間に静かな力を生み出していた。
「シャア…私は…どうすればいい?」
ガルマの問いかけに、シャアは答えなかった。
彼らの未来は、もはや一筋縄でいくものではない。
ザビ家への復讐と、ガルマとの友情。
その間で揺れ動くシャアの心は、答えを見つけられずにいた。
戦闘が一段落したファルメルは、静かに宇宙を漂っていた。
星々の光が艦内に差し込み、シャアとガルマを照らし出していた。
彼らの影は、その光に照らし出され、一つに溶け合っていた。
それは、未だ彼らが共に一つの未来を見据え、
一つの絆で結ばれていることの象徴だった。
だが、それと同時に、彼らを待ち受ける未知の困難と葛藤も、
その影の中で、じっと彼らを見つめていた。
ガルマは、シャアの告白を受け入れ、
二人の新たな関係を築くために立ち上がった。
彼の心は、まだ揺れ動いていたが、
それでもシャアと共に前に進む覚悟を固めていた。
シャアもまた、ガルマとの友情と、
ザビ家への復讐という相反する感情に揺れながら、
ガルマの手を取った。
二人の前に広がる未来は未知だらけだった。
しかしそれでも、彼らは共にその未来への一歩を踏み出した。
影と光が入り混じる中、
その先へと紡がれていく。