ファルメルが静かに宇宙を漂う中、ガルマは自らの立場とジオン公国、
そしてザビ家の未来に想いを馳せていた。
彼の目に映る星々は冷たく、その輝きは彼の内なる不安を照らし出していた。
彼の心は、戦争の恐怖とシャアの存在、
そして自分がザビ家の人間であるという事実に揺れ動いていた。
一方、シャアは新型MSリック・ドムの慣熟飛行を行っていた。
自らのパーソナルカラーである赤い塗装が施され、シャア専用にカスタムされたその機体は暗礁宙域を縦横無尽に飛び回っている。
シャアもまたコクピットの中で自らの存在を問い詰めていた。
彼の心は、赤い彗星としての自我と、キャスバル・レム・ダイクンとしての復讐の炎との間で裂かれていた。
宇宙の無限の広がりの中で、シャアは自己の存在意義を問い詰めていた。
人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって既に半世紀。
地球の周りには巨大なスペースコロニーが数百基浮かび、人々はその円筒の内壁を人工の大地とした。
その人類の第二の故郷で、人々は子を産み育て、そして、死んでいった。
宇宙世紀0079・1月3日、地球から最も遠い宇宙都市サイド3は、ジオン公国を名乗り、地球連邦政府に宣戦を布告、ジオン独立戦争が勃発した。
その1ヶ月余りの戦いで総人口の半数を死に至らしめた。
人々は自らの行為に恐怖した。
戦争は膠着状態に陥り8ヶ月余りが過ぎた。
ジオン公国の首都、ズム・シティ。
公王デギン・ソド・ザビは戦争の行方とザビ家の未来に思いを巡らせていた。
彼の目の前には、次男サスロの死と末子ガルマへの父親としての期待、そして総帥である長男ギレンの野望が立ちはだかっていた。
デギンの耳に、月面都市グラナダから長女キシリアの報告が届いていた。
キシリアは父に対して敬意を払いながらも、
その言葉からはジオン公国に対しての強固な意志が滲み出ていた。
「父上、月面都市グラナダは確保いたしました。連邦軍に対して、我々は戦術的優位を確保しています。」
デギンはキシリアの冷静な報告に頷きながらも、彼女の冷徹さ、そしてギレンとはまた違う野望を察知していた。
「キシリア、お前は冷静だ。決して力に溺れ、人の価値を見失ってはならん。戦争とは恐ろしいものだ。それを忘れるな。」
キシリアの目には、ある種の炎が灯っていた。
それは父に対する尊敬でもあり、異を唱える勇気でもあった。
「父上、私はジオン公国、そしてザビ家のために戦っています。個人の感情は二の次です。」
デギンは静かに息を吸い込んだ。
「私は恐ろしいのだ、この戦争の行く末が…。ガルマあれは優しすぎる、お前やギレン、ドズルとは違う。母親に似た優しい男だ。キシリア、ガルマを守ってやってくれ。」
キシリアの目に、ほんの一瞬、感情が流れた。
「お任せください。父上は何も心配することはございません。ガルマは強い子です。そして私はいつでも父上とガルマの味方です。」
デギンはキシリアの強固な決意と、胸に秘められた炎を感じ取り、黙って頷いた。
しかし彼は、彼女の成長と、それに伴う深い孤独を知っていた。
ギレンは自らの部屋で、ジオン公国の未来と自身の野望を熟考していた。
彼の目には、ジオン公国の絶対的な支配と、地球連邦の終焉が映し出されていた。
その野望はザビ家を超え、ジオン公国を超え、宇宙に彼の名を刻むものだった。
一方、三男のドズルは妻のゼナと生まれたばかりの愛娘ミネバを見つめながら、
戦争と家族という相反する存在に心を揺さぶられていた。
だがドズルは武人として誇りを持っていた。
戦士としての儚さと父としての愛が交錯していた。
ファルメルの艦内で、ガルマはシャアに近づいていた。
彼の中には、シャアとの友情とは裏腹に、彼がザビ家の敵であるという事実に対する恐れがあった。
「シャア、次に我々はどう行動するべきだと思う?」
シャアはガルマの問いに静かに答える。
彼の言葉には、赤い彗星のシャアとしての冷静さと、
キャスバル・レム・ダイクンとしての激情が混ざっていた。
「ガルマ、今は木馬を追い詰める時だ。だが、それと同時にジオン公国の未来についても考える必要がある。」
ガルマはシャアの言葉に深く頷いたが、彼の目には不可解な輝きがあった。
シャアに対する信頼と同時に潜む不安。
それはザビ家の未来と彼自身の運命に密接に結びついていた。
公王デギンはギレンを自身の執務室に呼び寄せていた。
周りを静寂が包み込む中、デギンの言葉が重く響いた。
「ギレン、我々ザビ家はジオン公国の未来を背負っている。この戦争は人類の進化の為に必要な試練だ。それと同時に、我々自身の価値を証明する舞台でもある。」
ギレンは父の言葉に、自信に満ちた言葉で答える。
「父上、そのくらいのことは熟知しております。我々ジオン公国の未来は、安泰です。」
「ギレン、連邦政府に勝利した後、貴公は何を望む?」
デギンの目には深い憂いが浮かんでいた。
ギレンの鋭い眼差しが父のそれと交錯する。
「それは時代の要請です、父上。我々ジオン公国の勝利は、新たなる人類の歴史の幕開けに他なりません。」
ギレンの答えは冷徹で、それは彼の野望の影を隠すものではなかった。
デギンはギレンの言葉に深いため息をつく。
「ギレン、力を持つ者ほど、その力に飲み込まれる。歴史はその証左だ。貴公が描く未来に、慢心と盲信の影はないか?」
「父上、未来は我々の手の中にあります。我々の正義は揺るがぬものです。ジオン公国の栄光を阻む力など、この宇宙には存在しません。」
ギレンはそう言って、父デギンに背を向け、部屋を去っていった。
デギンはその背中を見送りながら、ザビ家、ジオン公国、そして人類の運命を案じていた。
この戦争が、ザビ家とジオン公国、そしてシャアとガルマの未来をどのように変えていくのか、それは未だしれぬものであった。
星々は彼らの運命を静かに見守っていた。
宇宙の果てには、未だ見ぬ未来が広がっているのか。
戦争の火は未だ宇宙の静寂を破り、星々がその悲劇を静かに見守っていた。
未来は霧の向こう、星々の彼方に隠れ、その謎を明かす時を静かに待っていた。